埼玉全農、生乳再販制度悪用に判決

人の世に変わらぬものは無いというが、酪農ほど変化の無い組織はないと言われる。
そうであろうか?

訴追に至る経緯

ここに変化を嫌ったばかりに最悪の方向に走った組織がある。全国農業協同組合、「全農埼玉」である。
全農、埼玉支部(旧埼玉経済連)は、集送乳費控除を巡る不当利得があるとされ、一部の組合員にその違法性を指摘された。
今回、被告として訴追されている全農は集送乳費用等の合理化による価格形成の強化、一元集荷多元販売制度の強化をうたい文句に、集送乳費用まで「合算」していたのである。
不当利得要求額は2億5646万4525円および、その金利で、この組合員の加入する3酪農協は平成14年4月、訴追に踏み切った。

そして2年間の裁判の末、16年3月31日、損害請求額と14年からの金利の支払命令が下され、ほぼ原告側の全面勝訴となった。

10年ほど前にさかのぼる、埼玉県下には全農系CS加入農家と他の独立した酪農CS組合があった。
当時は全農(旧経済連)系農家乳量1割、他の酪農協が9割を占めていた。
全農系農家のCSでは、集送乳経費が増大し、埼玉県下平均の5円/kgをオーバーして9円/kgの経費がかかっていた。
さらに農家戸数の減少から集乳費用の増大が予想され、これ以上の集乳費の増額は、乳業会社に直接販売する、アウト乳の増加をもたらすことが心配された。
このままの集送乳単価で続けたら、赤字になるという状態になった。
しかし、全農だけが集送乳経費を値上げする事はできない、組合員が他の組合に流出してしまう、アウトも増える。
経費増大に窮した全農は一計を案じた。
ごく一部の役員や職員の間で集送乳費の一元化が提案され、埼玉県下を一率の乳代、集送乳費合算のプール乳価精算を開始したのである。
全農はコスト競争をしないですむシステムをつくった、と同時に全農以外の酪農CS組合はコスト競争にさらされる構造を作ったのである。 (いずれ集送乳費は増大し、他の組合も5円ではまかなえなくなる、埼玉県下の農家はすべて、経済連傘下に入るしかない状況が作れる、と考えたようだ)

本来はこの時点で解散か統廃合されるべき酪農組織だったと思う。
ところが、維持継続、さらに拡大という夢を描いてしまった。自らの努力はせずに、である。
その後、問題となるプール生乳代金からの搾取と集送乳費の補填がはじまる。
旧経済連での決議機関を経ることなく、埼玉の全乳量から一率0.95円を共計精算金として源泉搾取した。
さらにその金を表帳簿から隠し、集送乳費不足分の補充として全農傘下CSにのみ充当された。
これにより、全農組織は10年間で6倍になり、全体の6割を占めるようになった。
埼玉の行政から指定を受けている全農は、この時より生乳販売単価を開示せず、平成6年より約10年間、これらの事実を隠蔽していた。

今回原告側の3酪農協では営業努力によって平均5円/kg(3.26円直送〜6.30円CS)の経費でまかなっていた。
ところが、全農系CSではこの営業努力を嫌い、オーバーした経費をプール乳価より源泉搾取という方法で、裏金として赤字を補填していたのである。

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精算実態の発覚

「一元出荷の強化策」として集送乳費までプール化されてしまっていた。
これを違法行為として判決が下されたのである。
全農はなぜこんな事をしたのか?
平成5年頃よりCS利用も一元化しようとし、全農に入籍することが有利であるという既成事実を作った。
源泉搾取した資金により、集送乳費用の不当補填や、様々な補給金の交付という方法で作り上げていたのである。
この方法で全農傘下の組合員を拡大し埼玉県下の半数以上が全農に籍を置くようになった。
ところが、平成14年の関東生乳連発足時に、この不正事実が発覚した。
埼玉県内集送乳合理化委員会の席上、「いやぁ〜集送乳費の5円ですが、本当は6.5円かかっているんです」という一言が、長年組合員を騙していた役員の口から出てしまった。
同会議の席上、当時、指定団体を預かる全農の部長、課長が詳細を説明した。
実際は6.51円の集送乳費が掛かり、しかもその支払いは若干の上下しながらも10年間払われ続けてきたことが、提出された資料とともに明らかになった。

席上、資金の捻出方法まで明かされ、会議は騒然となった。
会議は収拾がつかない。
提出された資料も「農家に見せてはまずい」ということになり回収された。
埼玉県下の酪農家全て(アウトを除く)が不当な集送乳費を知らない間に支払わされていたのである。(プール乳価そのものからすでに天引きされていた)

塵も積もれば馬鹿にできない。キロ1円の搾取は2億6千万円にもなった。

当初より、全農の不正を訴え奔走してきたK氏は言う。
まだ裁判するまで話が進んでいないとき、集乳費用の不平等を正せ、勝手に源泉搾取をするな、と要望した。
しかし返ってきたのは、酪農家の生命を絶つような脅迫だけだったという。
全農を訴え、裁判なんかすれば「除名するぞ」とか「牛乳を汲みに来ないぞ」と脅された。

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不正を生み出したもの

人の組織というものは変化を止める事はできないと思う。
良い方向に向かうか、悪しき方向に向かうかであろう。
10年前、なぜ集送乳費の増大を正面から考えようとしなかったのか。
組織として努力すれば5円の集送乳費でまかなえたはずだ。
なぜここまで短絡的に事を決したのか?
酪農家役員や上部職員の中に「自分に火の粉が掛からなければいい」という気持ちがあったのではないか。

さらにK氏はいう。
筋違いな脅迫や精神的な圧力に耐えている中、近隣の農家には「お前のせいでうちの牛乳まで汲みに来なかったらどうするんだ」と、文句をあからさまに言う農家もあった。
農家のためにと頑張っているのに、解ってくれる農家は少ない。
勝訴してみれば、その近隣の農家が「うちの取り分は何時ころ入金するんだい」と聞きにきたそうだ。
世の中そんなものかもしれない、が、百姓根性丸出しもいいところだ。
欲を掻きすぎれば爪がはげると言うが、爪がはげるほど私欲を掻いても、財を残したという話は聞いたことがない。
K氏のような人がいなかったら2億6千万の搾取はさらに膨らみ、今も続いていたのだ。
一人ひとりの酪農家がもう少し全体のことを考えていたら(団体に盲目的になるのではなく)、このような事件で巨額の損失を被ることはなかったと思う。

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勝訴、その判決の意味

酪農家にとって大変重要な司法の見解が、今回の判決で出された。
多くの酪農家が誤解している無条件委託販売について。
昭和41年に施行された指定団体による生乳再販制度は、生乳の販売価格交渉についてのみ条件をつけないという解釈であって。
その後に発生したCSや組合の経費等はまったくこの法律の範囲ではない。とする司法の見解が出された。

「牛乳に関わる事はすべて組合決定に従う義務がある」と思っている農家は多いが、決してそんなことはない。(判決文事実及び理由 第3参照)
団体に許されているのはメーカーとの価格交渉と販売先の選択だけである。
CSの利用やその在籍組合の選択、集送乳の委託をするのかしないのか。
その精算方法、情報開示、すべて農家による選択の自由が認められている。
「そんなこと言ったって出来るわけがない」と思っている方は判決文を持って権利を主張してみればいい。
やる気があればの話だが。

今、埼玉の酪農家の間では大変な問題となっている。
2億6千万円はすでに組合の経費として使われてしまっているのである。
弁護側は4人もの弁護士を使っている。
裁判費用、金利、諸経費を合わせれば3億数千万円になるであろう。
実行責任者は今でも確定できていない。
県下の約半数を占める現、全農傘下の酪農家に、賠償金支払いの義務はないと思う。
彼らもまた被害者ではないか。
10年前、代表者会議など、組合事業に決定権のある会議には一度も計られずに書類が配布されている。
今回のことは、組合員の知らないところで何者かが進めたことなのだ。
そして組合員は10年間、騙されていた。
役員の職務権限、職員の職務規定の実施、および遵守の状況を見直す必要はあると思う。
役員、または職員の中に「不正」を働いた者がいたのではないか、越権行為があったのではないか?今後の調査で明らかになるであろう。

そしてこれは埼玉だけでなく、日本の酪農業界全体にとって、この判決の意味は大きい。
まるで天下の「御法度」のように「無条件委託販売」をかざす、酪農組織の悪しき慣習を改める機会を与えてくれた。
酪農の天下を正す、水戸黄門の「印ろう」になるかもしれない。

現行法律では、組合の決議(組合員の総意として)がなければ販売乳価を法律的に開示する義務はない。
しかし来年(H17)から指定団体販売乳価情報公開の義務が国の法律により施行される。

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