新年明けましておめでとうございます。
昨年を振り返ると、年初から北海道、九州の生産調整が報道され、各地の組合役員や、実際に制限を受けた酪農家の方々には、本当に大変な1年であったと思う。
新年を迎え、あらためて各地の生産調整への対応をみると、地域によって大きな差が出ているようだ。
中央酪農会議は生産調整2年目を宣言し、今年もまた厳しい生産制限が実施されようとしている。
販売乳価は大幅に下がり、出荷量は一方的に制限される。
酪農の将来はどうなるのだろうか。
すべて後追い、事後処理的な政策で、既に優位に立っているしたたかな大手乳業に対抗できるのか。
前回のコラムに掲載した写真の通り、今や北海道の牛乳が関東で139円で売られている。
この価格から、酪農・乳業界の現在の動向を伺い知ることができる。
店頭価格130円台のパック牛乳の配送センター卸値は約115円。
そこに至るまでの諸経費は概ね下記の通りである。
北海道から関東の配送センターまでの運賃 | 15円 |
北海道でのESLパック加工製造費 | 30円(紙パック8.5円含む) |
集送乳、組合費 | 8〜10円 |
中間問屋手数料 | 2〜5円 |
消耗品費 | 2円 |
計 | 約57円〜62円 |
これだけの経費を、配送センター卸価格115円から差し引くと、農家手取り乳価は約55円/1パック当り、という計算になる。
北海道の公式飲用乳価格とはあまりにかけ離れた値段だ。
誰が望んでこうしたことが実行されているのか。
北海道の酪農家もこの「飲用乳価格」は本意ではないだろう。
安売りされる側の内地の酪農家や中小乳業が受ける影響は大きい。
特に中小乳業は、指定団体からの配乳価格は2円程度しか下がっていないにも関わらず、小売末端価格は10円〜20円/1パック当り、
という単位で値下がりしているのだから、その打撃は深刻である。
北海道では、補助金を使ってESLパック製造ラインが次々に建設され、これには数十億円が投資されている。
今更製造を止めることはできない。
今秋からのナチュラルチーズ工場稼動開始とあわせ、今後牛乳の流れはさらに大きく変動するだろう。
北海道帯広、ホクレン市場の初任牛市場が昨年12月14日・15日で開かれ、約1200頭のせりが行われた。
10月は近年では最低価格をつけ、37万円平均。
腹の子はほとんどF1かET和牛だからその価格の低さに驚く。成立割合も7割であった。
ところが、12月のせりは一転した。平均11万円値上がりし、48万円をつけた。
この価格は昨年中初の価格帯である。
せりの価格は偶然変動するものではない。
その背景には、各地の広域生乳販連の動きがあった。
余乳対策と生産枠が大きな問題となった昨年夏以降、生産枠のない農家、生産枠におさまっている農家、それに生産枠未達成の農家の対立は硬直を極めた。
これを緩和するため、各地の広域生乳販連は独自に枠の移動・売買を推進する方向に走ったのだ。
9月末までの生産状況・販売状況の集計後、11月以降の下半期の調整分として枠を動かし始め、生産枠未達成の農家の持分が、
経営拡大途中で枠のない農家などに配分される事になったようだ。
その結果、それまで制限されていた農家が生産枠を獲得し、一斉に牛の導入に乗り出したのである。
私自身もセリに立ち会っていたが、これを見る限り、農家の生産意欲の旺盛さには驚かされる。
産み月間近の初任牛や、一産した経産牛が異常な高値で売買されるのだから、「枠絡み」という様相が顕著であると実感した。
生産枠の基礎が前年比実績に拠って決定される現状では、近年実績を拡大している農家(意欲的な将来を担う農家)は真っ先に生産制限の対象となり潰されてしまう。
生産枠の売買はそのような農家には救いの手となるが、同時に、全体の生産量は確実に増えるというジレンマを抱えることになる。
今後どう対処していくのだろうか。
昨年末、九州は40円/kg、関東は30円/kgで生産枠の売買を開始。
関東、九州とも、各県間の生産枠移動ではなく、県内での移動を基本にしている。
「ワク」というとあたかも権利が手に入るような響きがあるが、どちらも今年度限りということだから、実際には「過剰生産に対するペナルティー」と言える。
こうした特殊な金銭が動くとき、とかく黒いお金が発生しやすい。
組合の清算の仕組みの透明化がより一層求められるところである。
厳しい生産調整を強いられた。
夏の乳量を基準に冬の生産量を制限するという方法である。
この地区は夏に比べて冬の半年は3割ほど多く生産されるそうで、冬の時期の生産量が大変多い地域である。
枠を超えて生産した分は85円/kgのペナルティー。
はっきりいって「捨てろ」ということであろう。これは大変厳しい。
当初から「ワク」の売り買いはしないという方針を打ち出している。
しかし、当然ながら生産過剰な地域と未達成の地区はあるので、それぞれの地域間の軋轢はより厳しくなっていた。
河ひとつ隔てて西と東、「天国と地獄だ」と、十勝地方の農家はため息混じりに語る。
ホクレンは生産枠の見直しはない、と農家の懇願をはねつけていたが、ここに来てさすがに不平等感がつのり、1月末には枠の見直し会議が予定されているそうである。
全国的には07年度も生産調整続行を宣言し、全体で生産を抑える方針を打ち出している。
また厳しい枠のせめぎあいが予想されるが、一方で、牛乳の価格は冒頭で述べたとおりである。
何か忘れていないか?
生産調整は何のためにするのか。価格維持のためではないのか?
組合に服従させるための手段に使われてはいないか?
広域生乳販連を組織して最初の生産調整である。
その真価が問われ、酪農組織、酪農行政の向かう先が見えてくる年になりそうだ。